記事
旅館業法で宿泊を断れるとき 外国人のお客様と2023年の改正

旅館業法の第5条は、宿が宿泊を断れる場合を四つの号に限っていて、国籍や外国の方であることは、そのどれにも入っていません。2023年12月13日の改正で、宿に過重な負担となる要求を繰り返す人の宿泊を断れる場合が加わりましたが、まず応じられないことを伝え、それでも繰り返されたときに当てはまる決まりです。この記事では、四つの場合と例、改正で変わったこと、断る前に宿がしておくことを、条文と旅館業法を所管する厚生労働省の指針で確かめてまとめます。
要点
- 旅館業法第5条第1項は、宿泊を断れる場合を四つの号に限っています。国籍や外国の方であることは、どの号にも入っていません。
- 第5条第1項にない理由を宿泊約款に書いても無効で、違反して断った者は50万円以下の罰金の対象です。
- 2023年12月13日の改正で、過重な負担となる要求の繰り返しが加わりました。まず応じられないことと宿泊は受け入れることを伝え、それでも繰り返されたときに当てはまります。
- 障害を理由に宿泊を断ることはできず、社会的障壁の除去を求めることは特定要求行為に当たりません。
- 第1号と第3号を理由に断ったときは、理由や経過などを記録して3年間保存します。2026年10月1日からは、事業主にカスタマーハラスメントの防止の措置も義務づけられました。
断れる場合は第5条の四つの号
旅館業法の第5条第1項は、営業者は次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならないと定めています。各号は次の四つです。
- 第1号 宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。
- 第2号 宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき。
- 第3号 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。
- 第4号 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
同じ条の第2項は、旅館業の公共性を踏まえ、宿泊しようとする者の状況等に配慮して、みだりに宿泊を拒むことがないようにするとともに、断る場合には各号に当たるかを客観的な事実に基づいて判断し、求めに応じて理由を丁寧に説明できるようにすることを求めています。
厚生労働省は、第5条第1項にない理由を宿泊約款に書いても無効で、同項にない理由で断れば旅館業法の違反になると説明しています。第5条第1項に違反した者は、50万円以下の罰金の対象です(第11条)。
四つの場合と宿がすること
各号に当てはまる例は、厚生労働省の指針と改正旅館業法のページに示されています。宿がすることと並べると、次のとおりです。
| 第5条で断れる場合 | 当てはまる例(公式の指針から) | 宿がすること |
|---|---|---|
| 第1号 特定感染症の患者等 | 一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症などの患者等。新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日に五類感染症に移り、当たりません | 医師の診断の結果など、報告の中身に基づいて判断します。断ったときは理由などを記録し、3年間保存します |
| 第2号 違法行為や風紀を乱す行為のおそれ | 暴力団員等であるとき、他の宿泊者に著しい迷惑を及ぼす言動をしたとき、従業者につかみかかるなどの行為 | 一人で対応せず、暴行罪や威力業務妨害罪などに当たり得るときは、警察に協力を頼みます |
| 第3号 過重な負担の要求の繰り返し | 宿泊料の不当な割引や不当な部屋のアップグレード、土下座などの謝罪を繰り返し求めること、長時間にわたって不当な要求を繰り返すこと | まず応じられないことと宿泊は受け入れることを伝え、それでも繰り返されたかを事実で判断します。断るまでの経過も記録し、3年間保存します |
| 第4号 施設に余裕がないときと条例の事由 | 満室のときのほか、営業の休止や規模の縮小で十分なサービスを出せないとき。都道府県などの条例が定める事由 | 所在地の条例を確かめ、障害の特性による言動に配慮して、みだりに断らないようにします |
第1号と第3号を理由に断ったときは、当分の間、理由、日時、断った相手と対応の責任者の名前、第3号の場合は断るまでの経過の概要などを、書面か電磁的記録に残し、作った日から3年間保存します(改正法の附則第3条第2項)。厚生労働省は、記録の様式のサンプルも出しています。
2023年の改正で変わったこと
改正旅館業法は2023年12月13日に施行されました。宿泊を断れる場合と宿がすることについて、主に次の点が変わりました。
- 特定要求行為 第5条第1項第3号が加わりました。厚生労働省は、カスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者の宿泊を拒むことができることとされたと説明しています。
- 感染症の書き方 以前の「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」が、「特定感染症の患者等であるとき」と明確になりました。
- 感染防止の協力の求め 特定感染症が国内で発生している期間に限り、宿は宿泊しようとする者に、症状の有無などに応じて感染防止の協力を求められるようになりました(第4条の2)。
- 研修 感染症のまん延の防止と、高齢者、障害者その他の特に配慮を要する宿泊者への適切なサービスのため、従業者に研修の機会を与えるよう努めることになりました(第3条の5第2項)。
- 判断と説明と記録 断るときは客観的な事実に基づいて判断し、求めに応じて理由を丁寧に説明できるようにすること(第5条第2項)と、第1号と第3号で断ったときの記録が加わりました。
感染防止の協力の求めに正当な理由なく応じないことだけを理由に宿泊を拒むことは、第5条のほかの事由に当たる場合を除いて認められていません。
特定要求行為の中身
第3号の要求は、旅館業法施行規則の第5条の6が定めています。他の宿泊者へのサービスの提供を著しく阻害するおそれがあり、次のどちらかに当たるものです。
- 中身の面 宿泊料の減額その他の、実現が容易でない事項の要求。障害者差別解消法の社会的障壁の除去を求める場合は除きます。
- 方法の面 粗野又は乱暴な言動など、従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求で、その人の接遇に通常必要とされる以上の労力を要するもの。宿が障害を理由とする不当な差別的取扱いをしたことに起因するものなど、合理的な理由があるものは除きます。
厚生労働省のページは、当たると考えられる例として、従業者に対して次のことを繰り返し求める行為を挙げています。
- 過剰なサービス 宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウトやアーリーチェックイン、契約にない送迎など、ほかの宿泊者と比べて過剰なサービス
- 周りの部屋 自分の泊まる部屋の上下左右の部屋に宿泊客を入れないこと
- 応対する人 特定の従業者だけに応対させること、特定の従業者を出勤させないこと
- 謝罪の方法 土下座など社会的相当性を欠く方法での謝罪
- 介抱 泥酔して他の宿泊者に迷惑を及ぼすおそれのある人が求める、長時間にわたる介抱
- 長時間の要求 対面や電話、メールなどで、長時間にわたって、又は叱責しながら行う不当な要求
「負担が過重」かどうかは、事務や事業への影響の程度、実現の可能性の程度、費用や負担の程度、事務や事業の規模と財政や財務の状況などを考えて、個別の事案ごとに総合的、客観的に判断します。要求に応じられないときは、まず「そうした要求には応じられないが、宿泊自体は受け入れること」を説明し、それでも同じ要求を繰り返されたときに宿泊を拒むことができると、厚生労働省は説明しています。「宿泊しようとする者」には、すでに泊まっていて2泊目以降を泊まろうとする人も含まれます。
一方で、当たらないと考えられる例も示されています。障害のある方が、筆談でのやりとり、車椅子からベッドへの移動の介助、人の出入りの少ない静かな部屋など、社会的障壁の除去を求めること。障害を理由とした不当な差別的取扱いを受けて謝罪などを求めること。行為が障害の特性によることを、本人や同行者に聴くなどして把握できる場合。宿の故意や過失で損害を受けた人が対応を求めること(手段や態様が不相当なものを除きます)です。
断る理由にならないこと
国籍、人種、外国の方であること、言葉が通じないことは、第5条第1項のどの号にもありません。同項にない理由で断れば旅館業法の違反になるという厚生労働省の説明に照らすと、これらを理由に宿泊を断ることはできません。旅券の呈示と写しのお願いは、日本に住所のない外国人のお客様の宿泊者名簿についての別の決まりで、手順は外国人のお客様の旅券の確認と写しにまとめています。
障害があることも第5条の理由に入っていないため、障害を理由に宿泊を断ることはできません。障害者差別解消法は障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁じていて、2024年4月1日からは事業者による合理的配慮の提供も義務になりました。配慮を考えるために予約のときに障害について伝えてもらうことは差し支えありませんが、伝えていなかったことだけを理由に当日断れば、第5条第1項の違反で、不当な差別的取扱いにもなると厚生労働省は説明しています。
断る前にしておくこと
指針は、営業者が主観的な判断で宿泊を拒まないよう、実際に特定要求行為があったかなどの事実に基づいて判断することを求めています。日ごろから次のことを整えておくと、迷う場面でも同じ手順で対応できます。
- 決まりを先に英語で伝える 静かに過ごす時間、門限、お風呂の決まりなど、できることとできないことを予約の前に英語で書いておきます。書き方は館内の決まりを英語で伝えるにあります。
- 応じられないときの文 要求に応じられないことと、宿泊は受け入れることを、あわせて伝える英語の文を決めておきます。
- その場の記録 いつ、誰が、何を求め、宿が何と答えたかを、その場で書き残します。断ったときの記録は3年間保存します。
- 責任者が判断する 断るかどうかを帳場の係一人で決めず、責任者が事実を確かめて判断します。
- 警察と相談先 暴行や脅しなど犯罪に当たり得る行為には、警察に協力を頼みます。判断に迷うときは、旅館業の許可を受けた都道府県や市、特別区の担当の窓口に相談します。厚生労働省の改正のページは、営業者の相談先として日本司法支援センター(法テラス、0570-078374)も挙げています。
- 研修 厚生労働省と観光庁は、配慮を要する宿泊者への接遇の研修の資料を2025年3月に出していて、基礎編には英語版もあります。
- 英語の説明 厚生労働省は、改正の内容を英語で説明するページとポスター(The Hotel Business Act was amended at December 13, 2023)を出しています。そのページは、海外からの旅行者の相談先として訪日観光客消費者ホットライン(03-5449-0906)を挙げています。
要求に応じられないときに伝える英語の例です。宿泊を受け入れることを先に伝え、できることがあれば添えます。
I am sorry, but we are not able to offer a discount on the room rate. We will, of course, be glad to have you stay with us tonight.
申し訳ございませんが、宿泊料のお値引きはいたしかねます。もちろん、今夜はどうぞお泊まりください。
We are unable to keep the rooms next to yours empty. If noise is a concern, we would be happy to suggest a quieter room.
お隣のお部屋を空けておくことはいたしかねます。音がご心配でしたら、静かなお部屋をご提案いたします。
I understand your concern. Our manager will join us shortly to explain what we are able to do.
お気持ちは承知いたしました。まもなく責任者がまいり、当館でできることをご説明いたします。
We have explained that we are unable to meet this request. If it continues, we may need to ask you to make other arrangements for tonight.
このご要望にはお応えできないことをご説明いたしました。続く場合は、今夜は別のお宿をご検討いただくようお願いすることがございます。
2026年10月1日からのカスハラ対策
旅館業法とは別に、改正された労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、事業主にカスタマーハラスメントの防止の措置が義務づけられました。厚生労働省は、職場におけるカスタマーハラスメントを、顧客等の言動で、社会通念上許容される範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されるものとし、顧客等からの苦情の全てが当たるわけではないとしています。
事業主がしなければならないことには、毅然とした態度で対応して労働者を守る方針を決めて周知すること、管理監督者に指示を仰ぐ、できるだけ一人で対応させない、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報するといった対処の内容を周知すること、相談の窓口を決めること、事実関係を迅速かつ正確に確かめることなどがあります。宿泊を断るかどうかは旅館業法で、従業員を守る体制は労働施策総合推進法で、二つを分けて整えておきます。苦情の受け方は海外のお客様からの苦情に英語で応えるにまとめています。
よくある質問
旅館業法で外国人の宿泊を断ることはできますか
国籍や外国の方であることは、旅館業法第5条第1項が挙げる四つの号のどれにも入っていません。厚生労働省は、同項にない理由での宿泊拒否は法違反になると説明しています。外国の方の宿泊も、日本の方と同じく、四つの号のどれかに当たるかどうかを客観的な事実で判断します。
宿泊約款に書いた理由で宿泊を断れますか
厚生労働省は、第5条第1項にない理由を宿泊約款に書いても無効で、その理由で断れば法違反になるとしています。約款や館の決まりで断れる場合を広げることはできないので、断れるのは第5条第1項の四つの号に当たるときと考えて整えます。
クレーマーの宿泊は旅館業法で断れますか
2023年12月13日の改正で、過重な負担となる要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したときが、断れる場合に加わりました(第5条第1項第3号)。まず要求には応じられないが宿泊は受け入れることを説明し、それでも同じ要求が繰り返されたときに当てはまります。暴行や脅しなどは第2号に当たり得るため、指針は警察に協力を頼むことが適切としています。
宿泊を断ったときは記録を残す必要がありますか
第5条第1項第1号か第3号を理由に断ったときは、当分の間、理由、日時、断った相手と対応の責任者の名前、第3号の場合は断るまでの経過の概要などを、書面か電磁的記録に残し、作った日から3年間保存します。厚生労働省は、記録の様式のサンプルも出しています。
旅館業法の宿泊拒否に罰則はありますか
第5条第1項に違反して宿泊を断った者は、50万円以下の罰金の対象です(第11条)。指針は、都道府県などが不適切な宿泊拒否を把握したときに報告を求め、必要なら営業の許可の取り消しや営業の停止をすることもあると書いています。
まとめ
旅館業法の第5条第1項は、宿泊を断れる場合を、特定感染症の患者等、違法行為や風紀を乱す行為のおそれ、過重な負担の要求の繰り返し、施設に余裕がないときと条例の事由の四つの号に限っています。国籍や外国の方であること、障害は、そのどれにも入っていません。2023年の改正で加わった第3号は、応じられないことを説明しても要求が繰り返されたときに当てはまり、第1号と第3号で断ったときは記録を3年間保存します。館の決まりを先に英語で伝え、応じられないときの文、記録の形、責任者が判断する順番を決めておきます。STAYGOコンサルティングにご依頼いただければ、貴館の決まりと、要求に応じられないときに伝える文を、英語と日本語でそろえます。
出典と調べ方
十三のページと条文は、記事を書いた2026年10月15日に開いて読み、確かめました。条文はe-Gov法令検索の現行の版で読んでいます。机上で調べたもので、厚生労働省や保健所に問い合わせてはいません。都道府県などの条例が定める拒否の事由は地域ごとに違うため、記事には書いていません。
- e-Gov法令検索「旅館業法」(第2条、第3条の5第2項 研修、第4条の2 感染防止の協力、第5条 宿泊拒否の制限、第11条 50万円以下の罰金、令和5年法律第52号附則第3条第2項 記録)
- e-Gov法令検索「旅館業法施行規則」(第5条の6 第5条第1項第3号の要求の中身)
- 厚生労働省「旅館業法改正」(2023年12月13日施行、改正の概要、新たな拒否事由に当たる例と当たらない例、研修ツールと英語版、営業者の相談先)
- 厚生労働省「旅館業法改正 カスタマーハラスメントへの対応」(負担が過重かの考慮要素、まず応じられないことを説明する手順、特定要求行為の例、宿泊しようとする者の範囲、当たらないもの)
- 厚生労働省「旅館業法改正 旅館業の施設における特定感染症のまん延の防止に必要な対策」(特定感染症の範囲、新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日に五類へ、協力の求めに応じないことだけでは拒めないこと)
- 厚生労働省「旅館業法改正 研修の努力義務、みだりな宿泊拒否の禁止、宿泊拒否の理由等の記録」(研修の努力義務、みだりに宿泊を拒む場合、記録する事項と3年間の保存)
- 厚生労働省「旅館業法改正 宿泊拒否制限(旅館業法第5条関係)に関する基本的事項等」(約款に書いても無効、第2号と第4号の例、障害者差別解消法との関係、事前申告がないことだけでは拒めないこと)
- 厚生労働省「旅館業の施設において特定感染症の感染防止に必要な協力の求めを行う場合の留意事項並びに宿泊拒否制限及び差別防止に関する指針」(2023年11月15日)(客観的な事実に基づく判断、記録の方法、警察に協力を依頼すること、報告徴収と許可の取消し、罰則、訪日観光客消費者ホットライン)
- 厚生労働省「改正法附則第3条第2項の規定による記録様式のサンプル等について」(2023年12月13日)(宿泊拒否の記録の様式のサンプル)
- 厚生労働省「旅館業法」(許可は都道府県知事、保健所設置市と特別区では市長と区長、所管は健康・生活衛生局生活衛生課)
- 厚生労働省「The Hotel Business Act was amended at December 13, 2023」(英語の説明とポスター、海外からの旅行者の相談先)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(カスタマーハラスメントの防止の措置の義務化は2026年10月1日施行、防止指針は2026年2月26日公布)
- 厚生労働省 リーフレット「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます」(カスタマーハラスメントの定義、苦情の全てが当たるわけではないこと、事業主が講ずべき措置)